バセドウ病は、甲状腺ホルモンがつくられすぎて、甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。この状態を甲状腺機能亢進症といいます。甲状腺を刺激する免疫物質(TSHレセプター抗体)を勝手につくってしまうことが原因です。男性より女性のほうが多く、200-500人に1人ぐらいの人がかかっています。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を促し、内臓の動きを活発にしますが、これが過剰となるといろんな症状が出ます。
なかでも、甲状腺が大きいこと、脈が速いこと、眼球が出ていることが特徴的な症状です。甲状腺ホルモンが正常でも、眼だけ症状が出ることもあります。男性では急に筋力がなくなって立てなくなることもあります(周期性四肢麻痺といいます)。その他では、痩せがひどくて癌ではないかと消化器科、動悸にて循環器内科、いらいらがひどくて精神科・メンタルクリニック、眼の症状で眼科にかかって発見されることもあります。
甲状腺ホルモンの材料であるヨードが甲状腺にどれぐらい取り込まれるかを見る検査で、甲状腺ホルモンがどれぐらいつくられているかがわかります。高価な検査で、放射性物質を体の中に入れますので、血液検査で診断がつきにくい時に行います。
バセドウ病の治療は甲状腺ホルモンの正常化と、治ることを目的とします。バセドウ病の治療法には3つあります。
日本では1の薬物療法が多く、アメリカでは2の放射線治療が多くなっています。
甲状腺ホルモンがつくられるのを抑制する抗甲状腺薬というお薬を使用いたします。メルカゾールプロパジール(あるいはチウラジール)という2種類のお薬が現在あります。飲み始めてから約2-3ヶ月で甲状腺ホルモンは正常となり、その後は甲状腺ホルモンの値を見ながら徐々に薬の量を減らしていきます。 最終的に20-30%のバセドウ病患者様がお薬を中止できますが、あとの方は飲み続けることが必要となります。この場合、患者様によっては、放射性ヨード治療や手術を選ばれる方もいらっしゃいます。副作用には白血球減少、肝障害と皮疹があります。ほとんどが飲み始めてから3ヶ月までに出現します。
放射線を発するヨードを内服して、甲状腺だけに集めます。放射線で甲状腺を小さくして、甲状腺ホルモンを少なくする方法です。効果が出るのに数ヶ月かかること、10数年かけて効果は続くため、徐々に甲状腺機能低下症となることがあります。
甲状腺の多くの部分を外科的手術により切除して、ホルモンの分泌を少なくする方法です。ほかの方法と違って早く良くなりますが、全身麻酔と入院が必要です。
バセドウ病の方でも妊娠と出産は可能です。しかし、甲状腺機能を十分コントロールしておく必要があります。コントロールが不十分のままですと、流産・早産しやすく、胎児の発育が不十分となる可能性があります。
現在、使用できるお薬としてメルカゾールとプロパジール(またはチウラジール)があります。プロパジール(またはチウラジール)は胎盤通過性が少ないとされています。またメルカゾールでまれに胎児奇形があったとの報告もあります。一般的に両方とも問題はありませんが、プロパジール(またはチウラジール)が好まれる傾向にあります。
授乳についてはプロパジール(またはチウラジール)のほうが、乳汁へ薬が出てくる量は少ないことがわかっていて、こちらのお薬は授乳をされている患者様でも問題ないとされています。メルカゾールでも、服用後数時間たてば、乳汁にはほとんど出てこないことがわかっていて、服用と授乳の時間を調整すれば授乳は可能とされています。
新生児に対する影響は、母体の甲状腺刺激物質(TSHレセプター抗体:TRAb、TSAb)がかなり高いと、胎盤を通じて、新生児の甲状腺機能亢進症を起こす可能性(新生児バセドウ病と呼ばれます)があります。しかし、これは一時的ですので、あまり心配はありません。
母親がバセドウ病の場合、子供はバセドウ病になる確率はやや高いとされていますが、明らかな遺伝はありません。バセドウ病を起こしやすい素質を引き継ぎますが、必ずしも全員がバセドウ病になるわけではありません。
タバコを吸っているとバセドウ病が治りにくいことがわかっています。また、バセドウ病の症状の一つである眼球突出が悪化しやすいこともわかっています。眼球突出が重症になると、ものが二重に見えたり、視力が悪くなったり、眼の障害が出たりします。タバコは絶対に良くないです。禁煙をお勧めいたします。
甲状腺ホルモンの材料であるヨードをたくさん含んだ海藻類を摂ると、バセドウ病が悪化すると気にする方もいますが、普通どおりで構いません。ヨード摂取が少ない地域では、ヨードをたくさん取ると薬が効きにくくなることがありますが、日本では海藻を摂っても薬の効きに変わりないことがわかっています。日本にはバセドウ病治療のためヨード制限を指示する甲状腺専門医はほとんどいません。過剰に海藻を食べない限り心配ありません。
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