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甲状腺の悪性腫瘍

甲状腺癌

甲状腺に起こる癌はほとんどの場合はゆっくり進行していくため、治りやすい癌です。ほとんどの甲状腺癌は「しこり」以外の症状は乏しく、この「しこり」が診断の手がかりになります。まれに痛み、飲み込みにくい、声がかすれるなどの症状がでることがあります。

甲状腺癌には以下のような種類があります。

乳頭癌、濾胞癌と髄様癌は元の甲状腺細胞の特徴をのこしているため分化癌(ぶんかがん)と呼ばれます。
一方、未分化癌は元の甲状腺細胞の特徴に乏しく、進行が早くてたちの悪い癌です。
甲状腺にできるしこりのうち約20%が癌と推定されています。女性が4-5倍程度多くかかります。

乳頭癌(にゅうとうがん)

甲状腺癌のなかで最も多く、80%以上を占めます。
20・30歳代の方でも発見されることありますので、若いから大丈夫とは限りません。
「しこり」があるだけで他に症状はほとんどの場合ありません。よほど大きくなると気管を圧迫して息苦しくなる、神経を侵して声がかすれる、ものが飲み込みにくい、といった症状が現れることがあります。
進行は非常に遅くおとなしい癌です。中には数年前から「しこり」に気づいていたが放置していた患者様が、手術して完全に治ってしまうことも珍しくありません。
遠くの肺や骨に転移するより、甲状腺の周りのリンパ節に転移することが多いです。甲状腺の「しこり」より頚のリンパ節の腫れで気づく人もいます。
しかしリンパ節に転移しても、きっちり手術してしまえば90%近い患者様が治ってしまいます。極めてよく治る癌です。
運悪く手術後再発してもいろんな治療法があります。癌を治しきれなくても何十年も元気で暮らしている方もいらっしゃいます。

濾胞癌(ろほうがん)

乳頭癌に次いで多い癌で、甲状腺癌の8%ほどを占めています。
乳頭癌と同様におとなしい癌で、「しこり」以外には症状がない場合がほとんどです。
この癌は、頚の周りのリンパ節よりも、肺や骨など遠いところに転移することが多いです。
進行が遅く早期に治療をすれば、治る率はかなり高く、80%近い患者様が治ってしまいます。
良性の「濾胞腺腫」と思われた「しこり」から出てくることもあり、細胞検査では診断が困難なことが多い癌です。

髄様癌(ずいようがん)

甲状腺癌の1-2%とまれな癌です。
甲状腺の中のカルシトニンというホルモンを作る細胞から出てきます。このカルシトニンとCEAという物質が血液で上がります。
この癌の特徴は、1/3は遺伝することがわかっています。残り2/3は遺伝とは関係がありません。
RETという癌遺伝子が発見されていて、この癌遺伝子を持つ方は早めに甲状腺を取ってしまう手術を行います。
この癌のなかには、副腎や副甲状腺などほかのホルモンの病気を合併することがあり、多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)と呼ばれています。これも遺伝性の病気です。

未分化癌(みぶんかがん)

甲状腺癌の1%ぐらいとまれな癌ですが、きわめてたちの悪い癌です。
若い人には少なく高齢者に多いです。
診断されたときには、ほとんどの場合は遠くに転移していることが多く、手術ができないまま1年以内にほとんどの方が亡くなります。

検査
血液検査

甲状腺ホルモン検査を行います。
甲状腺内のサイログロブリンという物質が血液にもれ出てくることがあり、かなり高ければ診断の手助けとなることがあります。
髄様癌では血液中のカルシトニンとCEAが上昇します。

超音波検査

超音波検査が癌の診断ではきわめて大切です。最近の超音波検査では解像度が向上してかなりの率で癌と判定できます。
正常の甲状腺組織と腫瘍との境界、腫瘍の内部の状況、腫瘍内の栄養血管と血流の状況などで判定します。
最近では組織弾性イメージング法(エラストグラフィー)といって、腫瘍の硬さを画像化することができ、悪性の癌ほど硬いため癌の早期診断に非常に効果的な検査法もあります。
そのほか、頚のリンパ節の腫大がないかも調べます。

吸引細胞診

腫瘍に細い注射針を刺して、注射器で腫瘍の中の細胞を吸い取ってきて、癌細胞などの悪い細胞がいないか顕微鏡検査をします。
超音波検査で見ながら注射針を刺すことで、小さい病変でも、検査が可能です。数ミリという病変でも診断可能となっています。

CT・MR検査

CTとMR検査で癌と判定するのは困難です。最初に行う検査ではありません。癌と判明した後に、頚のリンパ節転移や病変の拡がり、食道、気管、頚動脈・静脈など周囲臓器との関係を調べて、手術適応と手術法を決めるために行います。

アイソトープ検査

特殊な場合を除いて、診断にはあまり手助けになることが少なく、検査費は高価な割に不確実なことも多く、最近では癌の診断のためにほとんど行いません。手術後に甲状腺癌の再発や転移の発見では手がかりになり有効なことがあります。

甲状腺癌のための検査の基本

検査の基本は超音波検査を行い、癌を疑ったら細胞検査を行います。癌と診断されたらCTやMR検査を行って手術法を決めます。手術後の再発・転移の検査にアイソトープ検査を行うことがあります。
当院では、来院当日に組織弾性イメージング法を含む超音波検査を行い、癌を疑った場合にはなるべくその日のうちに細胞診検査を施行いたします。癌と診断した場合は甲状腺手術のエキスパートがたくさんいる名古屋大学病院をはじめ、中部労災病院、名古屋掖済会病院、社会保険中京病院などに紹介して手術を行って頂いております。

治療

乳頭癌、濾胞癌や髄様癌などの分化癌では手術治療を行います。
転移病変があってもアイソトープ治療といって、癌にも取り込まれやすい放射線を出す物質を体の中に入れて、癌細胞を小さくする治療が有効なこともあります。元の甲状腺癌と甲状腺を全て手術で完全に取り去ってしまって、転移巣をアイソトープ治療します。
これらの癌では抗癌剤治療はほとんど期待できません。
遺伝性の髄様癌では癌遺伝子が発見されたら、癌ができていなくても早めに甲状腺を全て取り去ってしまう治療が勧められます。
未分化癌は発見時にはすでに転移していて、手術ができることが少ないです。手術よりも放射線治療と抗癌剤治療が中心となります。

微小癌乳頭癌

大きさが1cm以下の乳頭癌のことを言います。たまたま超音波検査で発見されたり、他の甲状腺手術で偶然に見つかる場合がほとんどです。乳頭癌の微小癌は進行が極めて遅いので、発見してもすぐには手術せずに、年1-2回の経過観察でも構わないとされています。癌が大きくなって手術しても手遅れになることはありませんので、心配要りません。

その他の悪性腫瘍
悪性リンパ腫

免疫をつくっているリンパ球という細胞が悪性化したものです。まれな病気で、高齢の方に多く見られます。
橋本病(慢性甲状腺炎)から起こることが多いです。橋本病があると甲状腺の中にリンパ球が多くなり、悪性化したものです。
ゆっくりと進む場合もありますが、急に大きくなるケースもあり、気管の圧迫によっていきぐるしくなったり、声が嗄れたりします。
甲状腺超音波検査と細胞検査が大切です。

他の癌からの甲状腺への転移

多くはありませんが肺癌などが甲状腺に転移することもあります。